建築士になるはずだった
(マ)え、建築士に?経済学部だよね?
(匕)2016年、建築士になるため北海道釧路市にある高専に入学しました。
一年時の成績によって二年生の分野が割り振られることになっていました。
僕は建築学科に進むために必死に勉強したんですよ。
(マ)日野ちゃんが、必死に勉強したらすごいことになりそうだね!
(匕)全科目平均98点で学年1位になりました。
(マ)すご。。。平均点・・・
(匕)でも、暗記すればできる学校の勉強にうんざりしていました。
暗記でとった98点にはなんの喜びもありませんでした。
(マ)(ボクなら、、大喜びで額に入れて飾るけどな・・・)
うんざりしてたのに、勉強したの?うんざりしてたら、普通勉強する意欲がなくなる気がするけれど、、、
(匕)数学に出会ったんですよ。数学って暗記だけでは解けず、問題によっては知識を必要としないものだってある。いかに閃けるか、いかに論理を使って解けるか。記憶力ではなく思考力で勝負する数学の魅力にどんどんのめり込んでいきました。
(マ)数学に出会いました!って、結婚相手に出会いましたみたいな表現!おもしろ!
出会ってからは、行動に変化があったの?
(匕)それからは建築の勉強そっちのけでたくさんの活動をしてきました。
数学の先生に誘われて数学研究会を設立しました。
(マ)数学研究会を設立!? なにするの?
(匕)授業の進度にかかわらず数学を研究していく部活です。
教科書を一冊決めて毎週メンバーの一人が授業を進めていきます。高2で大学1年の後期でやるような内容まで扱っていました。そのほかに数学検定を受けたり、数学甲子園に出場したりしました。特に僕に影響を与えたのは数学オリンピック(以下数オリ)です。
(マ)(数学って、、、甲子園とか、オリンピックとか。。。なんでもありだ 笑)
天才を知る
(マ)いつから数学の活動を始めるようになったの?
(匕)数オリをはじめて受けたのは高1の時でした。暗記でのテストに飽き飽きしていた僕は数オリの問題に衝撃を受けました。問題文はわかるのに全然解けない。いままでこんなに解けないテストを受けたことはありませんでした。悔しいというより、得意な数学でこんなにもできないことってあるんだなって、未知の世界に踏み入れたようでワクワクしました!思考力で勝負する数オリに熱を注ごうと思った瞬間です。
(マ)熱い。この熱量ってホント大事よね!こういうアカデミックな挑戦にもっと光があたるようになってほしいと個人的に願っている。この熱量のあと、どんな行動を??(興味津々)
(匕)そこから1年間対策をしてきました。図書館にあった数学オリンピック辞典を毎日読み込みました。
(マ)「毎日読み込みました。」いやー、この勝手にやってしまっている熱中が良い。ボクは、人が勝手にやっていることこそに、其の人の価値があるとおもう。毎日読み込んだ先を知りたい!
(匕)1年後リベンジにかかりますが、自分の望んでいた結果にはあと2点届きませんでした。
その時はじめて「同世代の天才」を知りました。自分ができないことを簡単に成し遂げる人がいるんだなと。それと同時に自分が数学では一番になれないことも知りました。
(マ)努力した結果、「勝てない」を知る。いーねー!!どうなるの??
(匕)数学から身を引き、高専の生活に戻りました。ただ、もはや満足できるはずがありません。気付いたら建築の熱もひき、もっとレベルの高い環境を求める体質になっていました。
(マ)カッコ良っ。
(匕)そこで京大にいく決意をします。必死に勉強をして、京都大学に入学しました。
でも僕にとっては数オリよりは京大入る方が楽だなって気がします(笑)
(マ)ボクも今、自分の「勝てない」を知りました(笑)
ふと抱いた疑問
(マ)そんな日野ちゃんが大学に入ってからは?
(匕)大学入学後は、もともと考えることが好きだったので哲学という学問に興味を抱きました。そこで「正解」について考えはじめたのです。もともと数学の世界に入り浸っていた僕にとって正解があることは当たり前でした。常に正解があり、それをいかに美しく証明するのか。それが数学の醍醐味です。しかし哲学には正解がありません。「人生とは何か」って質問を哲学者に問えば、その答えは千差万別でしょう。そんな世界に違和感を感じていました。
(マ)分かる!答えが千差万別であることに、疑問をもつことは思考のスタートになると考えているので、共感!
思考が変わって来るきっかけについては?
(匕)いくつかの出来事が僕の「正解」を変えることになります。最初に出会ったのは「天動説」と「地動説」です。簡単に説明しておくと、天動説というのは宇宙の中心が地球で太陽が回っているという考え方です。2世紀、プトレマイオスという人が考案し、15世紀まで正しいと信じられていた考えです。地動説は宇宙の中心が太陽で地球が回っているという考えです。コペルニクスさんが思いつき、いまでは常識となっています。ここで僕が注目したのは正解が変わっているということです。15世紀までは天動説が正解だった。いまでは地動説が正解になってる。
じゃあ「正解」ってなんだ?
次に出会ったのは「ニュートン力学」と「相対性理論」です。ニュートン力学はニュートンが構築した力学体系で、絶対時間と絶対空間を前提とします。絶対というのは状況によって時間が変わったり、また空間が伸び縮みすることはないということです。一方の相対性理論は時間と空間は相対的であるという考え方になります。アインシュタインが特殊相対性理論を提起するまで、人々にとって時間と空間が絶対的であるというのは疑いようのない真実だったわけです。
しかし、いまでは時間も空間も変わり得ます。
これは急に時間と空間が変化したわけではなく「正解」が変わっただけなんです。たしかに物理学は現実の世界を扱っているため、正解が変わることだってあるという意見はもっともです。僕もそう思います。
(マ)面白い、とらえ方でボクも学びになってます!
(匕)その考え方で数学について考えてみました。
数学は理論の世界で、人類が生まれてからこのかた絶対的に正しい学問と言われてきました。数学的に証明できればそれは真実です。だれも反抗できません。そして僕もそれをずっと信じてきました。物理学は不完全でも数学は完全だと。
次に僕が出会ったのは「ゲーデルの不完全性定理」というものです。
はじめて出会ったのは高2の時で、数学なのに不完全!?というなんとも言えない魅力とその響きに高揚し、当時の数学研究会の顧問にこれを研究したいと言ったところ、難しすぎて先生が理解できないからだめだと言われました(涙)
それ以来、いつかは勉強してみたいなと思いつつ、はじめてその定理を理解できたのは大学入ってからです。なんとこの定理は“数学”が不完全であることを示しているのです!
これには衝撃を受けました。ここまできたら僕の興味は止まりません。
僕はここで一つ正解について考えました。正解は変化するんじゃないかと?
(マ)論理的に、興味関心が数学へ伸びていく感覚、熱量が上がっていく感覚を強く感じます。これからの展望は?
これからの展望
(匕)証明したくなっちゃうのが僕の性です(笑)。
「諸行無常」という言葉があります。
世の中の一切は変わり続けるという意味の四字熟語です。これが僕にとっての「正解」だと確信しました。
よって証明します。ゲーデルの不完全性定理で用いられている手法を使います。
そのためには、その手法を理解し身につける必要があります。今はゲーデルさんの理論を理解しようとしているところです。とても難しく、手が止まっていますが成し遂げたい気持ちは止まってないです。
これがなんの役に立つかなんて僕の知ることじゃありません。
それでもやらずにいられないんです。
日野ちゃんが、PaKTingでテーマをもって話してくれたことで、数学に対するとらえ方の引き出しが増えた。もちろんボクだけじゃなくて、そこにいた誰もが疑問や興味をもち、発言し、糧にしていってたように思います。
少し、多様性について話をしたいと思います。
自然界は多様性にあふれていて、今、社会でも多様性を認める動きが広がっているように思います。
競争するのではなく、その人の個性だと多様性を認めるとは、正しいことでしょうか。
自然界における多様性とは、競争の末の結果です。
他の誰かに認めてもらったのではなく、認めさせたのです。
競争し、勝てないことを知り、新たに自分が活きる道を探す。
ボクは、それが個性に成長していくと考えています。
ボク自身、勉強で勝てないことを知り、舞台で勝てないことを知り、教えることで勝てないことを知り、経営で勝てないことを知り、デザイナーとして勝てないことを痛感しました。だからこそ、何足ものわらじを履き、全てをやってきたことが、自分の生き方をとなり今のPaKTとして表現していくことへの個性となってきていると考えています。
日野ちゃんの話から、そのようなことを考えていました。 日野ちゃん、素敵なPaKTingの時間をありがとう。
-PaKT統括 松榮秀士-